イラストレーション・シリーズ「レイヤー百景2.0」最終話/夏コミ地獄変・後編

Monthly Illustration series by inumoto

月一更新イラストレーション・シリーズ「レイヤー百景2.0」

二次元と三次元とコスプレとレイヤーの境界を行きつ戻りつしながら筆を動かす多元的イラストレーション・シリーズ。絵師・inumotoさんが描き、綴る、物語の中でコスプレを考察していくユニークな連作です。

最終話夏コミ地獄変・後編
　
無謀とも思われた同人誌はコミケでバカ売れし、2冊目3冊目とその後の即売会においてもうなぎ上りに売れ続け、彼女たちはひと財産を築いていた。
仲間内で分配し、それでも唸るほどの金があった。
みどり、祥子、寅子は完全に浮かれていた。

「楽しかったねーバリ島」
「次はヨーロッパに行かない？」
「イタリア行きてえなあ」

しかしその中でもズバ抜けた浮かれ方をしている者がいた。

「あ、イタリアはあたし、新婚旅行で行くから」

山田高菜であった。
唐突な発言に仰天する一同。

「え！？高菜ちゃん結婚するの！？」
「だ、誰と！？」
「ふふふ......先月出逢ったの！！運命の人と！！」
「大丈夫なのかよ、それ......？」
「何言ってんの、ちょーラブラブだよ。あたしもついに人生最大のコスプレ、ウェディングドレスに身を包む時が来たのよ！！」

高菜の家からの帰り道。祥子、寅子、みどりは衝撃の出来事について思案する。

「28歳、オタク文化にも理解のあるイケメン実業家か......」
「話がうますぎないか......？」
「で、でも......本人が大丈夫だって言ってるし」
「そうね、高菜が幸せになれるなら、私たちは祝福するしかないよ」
「私たちも負けてられないな！」
「そうだね、いい人見つけよう！」
「おー！」

煌びやかな会場に立つウェディングドレス姿の高菜はとても美しかった。
今まで彼女が纏ってきたどんなコスプレ衣装よりも、輝いていた。友人たちは皆一様に目に涙を浮かべていた。
しかしその涙には、別の理由があった。
高菜の隣に、新郎の姿はなかった。
高菜は涙ながらに語る。

「彼は......ロシアのスパイだったの」
「......」
「命を狙われていて......。身を隠すのに、お金も必要だし......。渡していた結婚資金も......全部......」
「わかったよ高菜......。それ以上言うな......」
「うん......大丈夫。あたしには、コスプレがある......」
「うんうん、そうだね......」
「また一緒にやろうね......」
「ここのとこご無沙汰だったからね......」
「そうだ！ここのとこ旅行だのなんだのって、全然コスプレしてなかった！　コスプレの神様ごめんなさい！！あたし、初心に帰ってがんばります！！」
「高菜、元気になってきたじゃん......」
「うん！そうだ、このドレス......魔法少女フィジカルなのかのアルティメットフォームの衣装に改造できなかな！？」
「ちょ、ダメダメこれレンタルでしょ！」
「そ、そうだった」
「高菜はコスプレのこととなるとこれだから」
「そこが高菜ちゃんらしいんだけどね」
「テヘヘ！よぉし、それじゃみんな！」

頷く一同

「せーの！」

『私たちのコスプレ人生は、まだ始まったばかりだ！』