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I want to live up to 100 years
「長生きなんてしたくない」という人の気持ちがわからない――。「将来の夢は長生き」と公言する四十路のオナニーマエストロ・遠藤遊佐さんが綴る、"100まで生きたい"気持ちとリアルな"今"。マンガ家・市田さんのイラストも味わい深い、ゆるやかなスタンスで贈るライフコラムです。ここ2年ほど、18禁じゃない媒体で、普通の女の子の性事情についてインタビューする連載をやらせてもらっている。
重要なのは「普通の女の子」という部分だ。仕事柄私の周りにはエロ業界の女性が多く、赤裸々でおもしろおかしいセックス話を聞く機会も少なからずあるのだけれど、やっぱり世間の大部分を占めるだろう層の話も聞いてみたい。そう思って始めた。
IT業界で働くキラキラ女子だったり、大学デビューの肉食女子だったり、BL好きの腐女子だったり。居酒屋でお酒を飲みながら自分より10歳も20歳も年下のかわいい女の子の武勇伝をを聞くのは、すごく面白くて、いつも時間が経つのを忘れてしまう。性事情をあけすけに話してくれるくらいだから明るいヤリマン気質の子が多いのだが、それもまた楽しい。
だいぶ酔いが回ってそろそろシメなきゃいけないなというときに「じゃあ、これからどんな性生活を送っていきたいの?」と聞くと、それまでテンションが高かった彼女たちの声のトーンはだいたい少し下がる。
「そろそろ結婚したいけど、今の彼氏はセックスに淡白だから悩んでるんです」
「一人の男性と添い遂げるつもりで結婚しても、セックスレスになっちゃったらどうしたらいいか心配で」
「だって結婚すると、男と女じゃなくて家族になっちゃうって言うじゃないですか......」
それを聞くと、すでに彼女たちの母親世代に差し掛かっている私はいつも「いいじゃん、家族で」と思う。
血がつながってない相手と家族になれるなんて、これ以上のことがあるだろうか。毎日セックスする相手がいるより、そっちのほうがよっぽどすごいんじゃない? でもその言葉をグッと呑みこむ。
なぜなら私も20代、30代の頃は「もし結婚するなら、性欲強くてセックスが上手な殿方がいい。んで、まあ毎日とは言わないけど週に1回くらいはロマンチックなおセックスに励みたい!」なんて思っていたからだ。
でも、実際に結婚して数年がたった今。既婚男性がよく言う「結婚すると嫁を性の対象として見られなくなる」というセリフが、半分くらいわかるようになってしまった。
家でのセックスをサボって風俗に行ったり若い女に走ったりするオジサン達を認めるようでちょっと嫌なのだけれど、実際そうなんだからしょうがない。夫と一緒に暮らし始めた頃は「いつでもヤレる異性が同じ屋根の下にいるなんて、超ラッキー!」とウハウハしていたのに、今は毎晩一緒に寝ていてもなかなかそういうムードにはならない。
Wikipediaで調べたところによると"セックスレス"とは「病気など特別な事情がないのに1か月以上性交渉がないカップル」のことなんだそうだ。それに照らし合わせると、結婚4年目の我が家はたぶんバリバリのセックスレスだ。
もちろん、他に入れ込む殿方ができちゃったとか夫への愛情が少なくなったとかいうのではない。むしろ前よりもかけがえのない人だと思うようになったし、ときには「ヤリたいぜ!」と思うこともある。でも結婚前のように「とにかくヤラなきゃ、寝る暇を惜しんででも!」というような勢いはなくなった。
でもまあ、それでも特に困ることはないし、毎日オナニーしてるから欲求不満になることもない。年齢のせいもあるんだろうが「セックスって、しなくなっても別に大丈夫なんだな」と思うだけだ。
「セックスレスでもいいじゃん」
エロ業界の端っこで仕事をしてる私がそんなふうに思うのは、「好き」って気持ちと性欲は別物だということを、日々身をもって感じているせいだと思う。
前回のコラムでも書いたけれど、我が家はちょっと特殊な夫婦である。
年齢差10歳。年下の夫は身体に女王様に付けられた切り傷があるくらいのハードなM男で、年上の私は筋金入りのオナニストだ。
オナニーするとき私が頭の中に思い浮かべるのは彼ではなく、画面に映るAV男優だったり、着物姿の海原雄山だったり、綺羅光の凌辱小説に出てくるデカマラご主人様だったりする。それはきっと夫も同じで、12センチヒールの女王様にいじめられることを夢見ては日夜オナニーしているに違いない。
でも、それが嫌だと思ったり頭に来たりしたことはない。愛情と性のファンタジーは必ずしも重なるものじゃないからだ。
20代から30代の頃、こんな私でも何人かの人とセックスする機会があった。
そして思ったのは、突き上げるような性欲というのは、上下関係があったり、不安定な関係だったりする場合にこそわくものなんだなということだ。
よく知らない相手との初めての夜。浮気に不倫にNTR......。ご主人様と下僕の間でのSMなんていうのは、その最たるものだろう。
知らないから知りたくなる。
欠けているから埋めたくなる。
離れているから引き寄せたくなる。
人間ていうのは、きっとそういうふうにできているのだ。
「セックスって、要は承認欲求だと思うんです」
そう言った女の子がいた。先のインタビューに応募してきてくれた30歳のバージン女性だ。相手はいないけどどうしてもセックスを経験してみたくて、出張ホストを呼んだこともあるという。
「だって、性器を他人の中に入れるなんて、相手を気持ち悪いと思っていたら絶対できないでしょう? それをするって、男の人に受け入れてもらえたって証拠じゃないですか」
結局、私が「何がなんでもセックスしたい」と思わなくなったのは、もっと受け入れてほしいという思いがなくなったからなのかもしれない。
礼儀正しいマゾ男性である夫は、結婚後10キロ近くも太ってしまった私のことを相も変わらず女扱いしてくれる。大きな荷物は当たり前のように持ってくれるし、たまにはサプライズでケーキなんかも買ってくる。
「ああ、この人は私のことが好きなんだ」そう思ったら、セックスにこだわらなくなった。
そりゃあ、ときには海原雄山みたいな傲慢な男に無理難題言って威張られたいと思うこともある。でも幸い私はオナニストだ。凌辱AV見ながらのオナニーで十分満足できてしまう。
いつまでセックスできるんだろうと、ときどき考える。
今44歳だから、あと5年? それとも10年?
もしかしたら、もう二度としないのかもしれない。でも、そうだとしても、不思議と怖いという気持ちはわいてこない。
突き上げるような欲望はないけれど、私を信頼しきった男の人がすぐそばにいるという安心感も、なかなかにエロティックじゃないか。
別々の妄想を抱えながら、別々の部屋でオナニーする。そんな夫婦がいてもいいと思っている。
とはいえ、ただ一つ気になるのは、夫はそれで大丈夫なんだろうかということだ。
まだ30代で性欲旺盛の彼に、欲求不満の暗い顔で「どうしても我慢できないから、外でSMしてきていい?」と言われたら......うーん。
笑って送りだす自信は、まだちょっとないかもしれない。
文=遠藤遊佐
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15.07.11更新 |
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