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the toriatamachan season3
女の子にとって、「美醜のヒエラルキー(それによって生まれる優劣)」は強大だ! 「酉年生まれゆえに鳥頭」だから大事なことでも三歩で忘れる(!?)地下アイドル・姫乃たまが、肌身で感じとらずにはいられない残酷な現実――。女子のリアルを見つめるコラム、シーズン3は「わたしのすきなこと」にまつわるアレコレです。VIPルームはサッカーゴールみたい。男の子達はそこに女の子を連れて行くことを勝ちだと思ってる。したり顔の男の子と、はしゃいでみせる女の子。私は頭の中で「シュート」って呟く。そういう渋谷の野蛮なクラブが好き。でも、そういうところに私の居場所はあまりないから、やっぱりターンテーブルのあるバーで、大人しそうな男の子達が幕間に演奏しているDJパーティの方が好き。でも私は踊りが上手くないから、ワインのおいしいレストランで知っている人と、それから知らない人と乾杯するほうが、もっと好き。薄明かりの空間たち。
あるいは、日が暮れはじめた赤坂から、青山通りを歩く。表参道につく頃には、すっかり暗くなっていて、ビルと、車のテールランプと、ショーウィンドウから漏れる明かりだけが、街の照明になる。それで私は簡単に、パーティに出席しているような気持ちになってしまう。でもそれは、いわゆるパーティじゃない。ただ、女がひとりで街を歩いているだけ。それくらいは、わかってる。
そもそも、本当のところ、私はパーティに出席したことがない。
小さい頃、絵本で読んだパーティは、本当は存在しない場所でやっていて、本当は存在しない人達がそこにいた。存在しない場所、存在しない人。私がたどり着けない世界。それでも私の心は、絵本の中のパーティに飛んだ。そうやっていまでも、本当のパーティは、参加できないものとして私の中にある。だから街を歩いているだけで、私の気持ちは華やいで、繊細な切なさで満たされる。本当はパーティではない、ただ街を歩いている私だけのパーティ。
それで、パーティを好きと言ったばかりだけど、現実のパーティにいる時の私は、実はそこまで楽しくない。お酒はおいしいし、みんな笑っているけれど、私はパーティと聞いただけで、期待してしまって、期待したものがその通りそこにはあって、なんだか少し憂鬱になってしまう。
絵本の中のパーティのような、華やかな、繊細な切なさに満ちた気持ちは、いつも不意にやってくる。予期していたパーティの途中よりも、住み慣れた東京の街を歩いている時や、暗い部屋でキャンドルを灯して、もう何度も読んだ本をもう一度読んでいる時やなんかに。
私は多分、パーティではなく、単に薄明かりの空間が好きだ。
私は母親が酒を飲む場に同席したがる子どもだった。酒の席は間接照明のダイニングだったり、かまくらの中(目の前をたぬきが横切って驚いた)だったりして、たいてい薄明かりだった。
母はよく酒を飲む人だ。それに辛いものが好きで、テーブルに置かれただけで目が痛くなるような料理を好んで食べた。内向的だった私は、そういう場で、なんでくっついてきたのかわからないほど大人しかったけれど、母の友人はみんな愉快で好きだった。同級生みたいに大きい声を出したりしないところも。何より知らない場所でも母がいれば安心なのが面白かった。
ある日の夜、夕ご飯を食べて、お風呂からあがると、喉が痛い気がした。まだあまり喉が痛くなったことのなかった私は、バスタオルで髪を押さえたまま、つばを飲み込んで、喉が痛いのを確かめては、少しずつ不安になった。
下唇を噛んで、母に「喉が痛い」と訴えた。母ならなんとかしてくれるだろうと思ったのだ。母は、私の部屋で夜景を見ていた。
私の部屋からは新宿の高層ビル群が見える。生まれの家は一階だったうえに、窓も少なかったので、引っ越してきた時はショックを受けて、大いにはしゃいだ。
ぬいぐるみや、キャラクターが描かれたメモ帳なんかが散らばっている四畳半で、母は椅子に座って夜景を見ていた。そして私に「おいで」と膝を叩いた。私は心底がっかりした。母が薬や体温計を持っていないことは明らかだったから。渋々、母の膝の上に乗った。そしてただ抱きしめられて「大丈夫」と言われた時、喉の痛みはひいた。当然のように。四畳半は暗いままで、高層ビルの明かりだけが部屋を照らしていた。
その何年か後、部屋の目の前にいくつかのマンションが建って、夜景は半分ほどのスケールになった。私は好きな時に自分で新宿まで出向いて、いくらでも夜景を見られるようになったので、時々期待して出向いて、期待したものがその通りそこにあって、勝手に少し憂鬱になったりしている。母が私の部屋から夜景を見ていたのは、私の記憶の中であの日だけだ。
パーティは依然として、参加できないものとして私の中にある。喉の痛みがひいた不思議なあの日も、もう参加できない日として私の中にある。それでも時々、薄明かりの空間が不意にあの日に繋がって、華やかで、繊細な切なさに満たされる。それを期待して、私はパーティに出向く。
文=姫乃たま
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