あぶらいふ長編時代SMロマンチカ
The ABLIFE November 2014
不遇の現代から起死回生を目指して「転生」した過去の世界で、妙齢のヒロインが彷徨う狂おしき被虐の地獄。裁き、牢獄、囚奴、拷問――希望と絶望の狭間で迸る、鮮烈な官能の美とは。読者作家・御牢番役と絵師・市原綾彦のペアで贈る待望の長編SMマニア小説。その夜......。
真夜中の代官所牢獄の片隅で、寝具もない板間の上に拘束された身で転寝(うたたね)をしていたユキの背中に、囁き声が聞こえた。
「おい......お雪、寝ているのか?」
ユキが寝返りと打つと、其処には先ほどの下男、惣吉がいた。
「す、すまねえ......やはり何だかおめえのことが気がかりでよう」
「ありがとう......来てくれたんですね」
ユキは着物の肌けた胸元から、飛び出した乳房を揺らして牢格子にへばり付いた。
「怒ってもう来ないんじゃないかと思っていました......」
「い、いやあ......罪人の女に誘われるとは思わなかったからよ......で、お雪。昼に言ったことは本当か?」
「あたしの......身体でございますか?」
ユキは、露出した豊満な乳房を下男の間近に見せて言った。
「本当です。だって、今のあたしにはこの身体しかないから......でも、こんなに傷だらけで痣だらけのお乳なんて、見ても興ざめしちゃうでしょう?」
「い、いいや......。おめえが良ければ俺は構わねえ。どうだ? お雪、チョイと触らせてくれねえか?」
ユキは黙って頷いた。自分も今は孤独な身で寂しくて仕方ない。現世ではボロ畳の上であれだけ浸っていた自慰行為も、此処では嵐のように続く拷責による体力消耗で、とてもできる気力などなかった。
だが、彼女は今この時代で初めて男に抱かれたい......という衝動に駆られていた。目の前の男がチンケな下役人でも構わない。男にこの癒えぬ傷の痛みで覆われた身体を触って欲しい......。
格子の狭間から男の手が伸びてユキの両胸に触れた。その瞬間、彼女の心に色欲のスイッチが入った。
男が指で自分の乳房を鷲掴みにし、激しく揉んでくる度に、牢内の女は激しく身悶えし、淫欲の波に溺れていく。
「アッ......い、いい。もっと、もっと触って......」
「いいなあ。こんな熟れた乳を揉めるなんて。どんな女郎屋にもここまでいい女はいねえ」
彼女は牢格子を挟んで、淫らに声を上げながらひとしきり乳房を揉まれ、欲情のままに背を向けて、破れた獄衣もしどけなく尻を突き出した。
「どうか......どうか、旦那様の竿を入れてください......」
ユキは淫魔に憑かれたように、蕩けるような眼をしながら男を誘う。その表情を見て勃起しない男は居ない。
「お、おうよ......どれ、ああ、可哀想に。尻たぶもこんなに笞痕と痣だらけじゃねえか。陰部もまだ腫れている。こんなんで大丈夫なのか?」
「大丈夫......は、はやく、はやく頂戴......」
ユキの誘惑に負けた下男は、褌の脇から天を仰ぐ肉棒を晒して、彼女の傷ついた局部に触れた。
「......あふウっ!」
一瞬、激痛が脳天まで駆け巡ったが、それがまた被虐の快感となった。彼女の裸出した艶尻は、男の竿が欲しくて堪らぬというように揺れ動いている。
下男の性棒が、深々と女罪人の局部に挿入された。夫のセンスケとのセックスさえ久しくなかった。餓え切った貝肉は、潤沢な淫汁でその内側をジュクジュクと満たし、男の肉竿を貪っていく。
「アッ......い、いい......あ、アア......ン!」
「おう、気持ちええ。気持ちええなあ......!」
ユキは、後ろから犯される形で猥藝な尻肉を牢格子に押し付けながら、激しく艶声を上げた。罪人と役人の許されざる性交が真夜中に繰り広げられる。
「あ、アウウッ......だ、旦那様......い、イク。イッちゃうよう......!」
「おう、俺もだ。いいか。いくぞ。お、オウウウ......ッ!」
激しい下半身のピストン運動の果てに男が突き上げた姿勢で、ユキも下男も一瞬停止した。
男が、ゆっくりと牢内にある割れ目に刺さった自分の肉棒を抜くと、白濁した精液が、ドロリと女囚の股間から内股をつたい、床に垂れ落ちた。
「良い女陰(ほと)だったぜ......。さすがは天下で男を散々誑かせた、淫女の尻だった」
「あたしも久しぶりだったから......。本当に気持ちよかったわ」
ユキは、牢格子を挟んで首枷に戒められた顔を力一杯せり出して、舌を突き出した。
「吸って......吸ってください」
下男の唇が、彼女の舌に触れる。たちまち二人は激しい接吻に溺れこんだ。彼女は、自分の色情が抑えられなくなったのを感じた。
そう......あたしは縄狂いの畜生淫婦――。
彼女は今漸く自分の前世の本性を悟った。これがあたしの前世、男を食い物にする蟷螂のお雪なのだと。
拷問蔵では、傷の回復したユキに再び拷問が加えられていた。
彼女が今受けている責めは、下男の告げたとおり吊り責めだった。
それも逆さ吊りの状態で滑車を引き上げられ、水の入った大桶に頭部を沈められ、水責めにされているのだった。
「ウ、うぐうウ......ッ。おけええ......ッ!」
ユキは、苦しさの余り女とは思えない絶叫を上げ続けている。
「ほら、この腐れ外道の女め。早く白状せぬか!」
彼女は全裸に剥かれたまま、強烈な逆さ吊りで意識も混濁し、意味不明な言葉を口走り始めた。
「あたしの生まれた時代では、みんなこんな丁髷の鬘(かつら)に、衣装を着て時代劇をしているの! そうだ、あんたは、時代劇に出てくる役者なんでしょ......! 役者のあんたが、こんなおぞましい拷問で無抵抗な女を裸に剥いて、一方的に痛めつけてもいいの......?」
「何を言っておるのか、この阿婆擦れめ。あまりの辛さで我を忘れたか......!」
役人は興奮して女を引き上げろと命令した。下男の手により滑車が巻き上げられ、桶から引き上げられたユキの顔は、うっ血して醜いほど膨張し、紫色に変色している。
「こ、こんな人権を無視した拷問なんて、許されるわけない......。あんたたちは、生きた鬼......畜生以下の人殺しの鬼よ......!」
「何だと......このアマめ! 盗人罪人の身で、よくそのような暴言を吐けたものよ!」
役人たちは、逆さ吊りにされた哀れな女囚の言葉に愕然とした。そして彼女の罵倒に逆上した。
「時々未来だの、現世だのわけの分からぬ言葉をぬかしおって......貴様のような、極悪人のほうが生きる価値などないわ。このイカレ女め......!」
与力は、逆さ吊りにされたユキの裸体を、笞で滅多打ちにした。ユキの傷だらけの身体が、桜海老のように空中で何度も跳ね回り、あまりの責めで逆さのまま失禁し、腹部を痛めたのか、口から鮮血を吐き出した。
「ウウッ......ウゲエエ......っ! こ、こんな酷いこと......こんな痛いことをして、天罰が下るわ!」
「煩いぞ......! いい加減に自分の悪事を改俊せぬか!」
ぎゃうっ! ギヤウウウウ......!
罪囚ユキは、顔をパンパンに腫らして血を吐きながら錯乱状態で悲鳴を上げ、小便塗れのまま絶叫し続けた。そのあまりに凄絶な姿は、もはや人の世界のものではない。地獄の責め苦に喘ぐまさしく罪人の姿そのものだった。
「この女をさらに水漬けにしろ!」
「あうう、この鬼どもめえ......!」
ギルギルと滑車が巻き下ろされる。水に頭部を浸けられて一層悶え苦しむ女から、絶えず水飛沫が飛び、そこに居た役人すらずぶ濡れになる始末だった。
「もう限界でございます!」
さらに厳しい責めを与えようと命令した吟味役に、牢医師が割って入る。漸くユキは、滑車から両足首を括られた縄目を解かれた。彼女は、全身濡れ鼠の裸身を晒し、紫色に血の上った顔を絶望させて、虫の息のように喘ぐだけであった。
「この女......もはや御上の裁断を仰ぐより他ないかもしれませぬな」
「ああ、ここまで縄狂いの女とは思わなんだわ......」
ユキの壮絶な肢体を睥睨する役人は、誰もが辟易の溜息を漏らしていた。
「お雪......どうやらお前に察斗詰のご沙汰がでそうだぞ」
下男の惣吉が牢内のユキの元に訪れたのは、彼女が吊り責めを受けた六日後だった。
「そうですか......」
ユキは、惣吉の言葉に牢の床にうつ伏せの姿勢のまま、格子の外で顔を近づけている男に言った。
「顔の腫れは、大分ひいたようだな」
厳しい拷問を受けた後は、倍以上に腫れていた女囚の顔面も、大分色艶を戻してはいる。しかし完全ではない。
「身体の痛みは確かにとれましたが、この姿勢のままでは、何も出来ず不便で仕様がありませんよ......」
ユキは苦笑して半裸の身を捩ろうとしたが、うつ伏せのまま動くことが出来ない。
彼女は逆海老の姿勢のまま両手、両足首を、一つの木枷に固定されていた。
そのため四肢を完全に拘束され、自分で立ち上がることも歩くこともできないのだ。
ボロボロの囚着は、度重なる拷問で使い物にならなくなったため、役人に没収され捨てられた。代わりに彼女は、わずかに下腹を覆うボロ布を腰巻代わりに巻いているのみだった。
「糞小便も垂れ流しのまま放置されているんですもの......。旦那様も臭くて堪らないでしょう?」
「ああ......今まで見た囚人の中でも、特に臭くて堪らないよ」
惣吉は、苦笑して鼻を覆う仕草をする。今ユキにとってこの惣吉だけが互いの身体を交わって交流できる唯一の男だった。
「それはそうと......あたしの判決......じゃなくて御沙汰が出るんでございますか?」
劣悪な環境の牢屋の中にいても、自分が今後どうなるのかやはり不安だった。
垢だらけの顔を心配そうに下男へ向けている。
「刑場で首を斬られるとか......」
「いいや、恐らく死罪はないと思う」
惣吉は牢鞘の側でしゃがんで、牢内に居る裸女囚に言葉した。
「今の御上は......藩主様のご意向で殺傷沙汰を嫌う傾向がある。一番厳しくても遠島......。軽くても永牢というところかも知れねえな」
「永牢......ですか?」
永牢とは永遠に牢屋に閉じ込める文字通りの終身刑である。この刑罰は恩赦の対象にならず、減刑されることはない。いわば死ぬまで牢屋暮らしを強いられる過酷な刑罰であった。
「此処にお前が捕われてもう一年近くになる。さすがにもう、引き延ばしはできない。あまり長い詮議だと、役人たちの方が職務怠慢だと逆に処断されちまうからな」
ユキは、芋虫のように汚物塗れの床を這い、格子の側まで来て惣吉を見上げた。
「あたしは、永牢の方がいい......。そうなれば惣吉様、あなたとまだ一緒に居られるのでしょう?」
「ああ、この吟味場と牢屋敷は分担が違うからな......。おめえと顔を合わせる機会もなくなるな」
「そ、そんな......」
ユキは消沈した顔で、悲哀に満ちた表情を牢格子の隙間から男に向けた。
「旦那と離れ離れになるなんて......寂しくて仕方ない」
「仕方ねえよ。それが俺とおめえの関係......てなことだ」
惣吉は、糞尿のこびり付いたユキの乱れ髪を触りながら、唇を近づけた。激しく舌を絡めて、唾液のチュパチュパと奏でる音が、陰惨な牢獄に鳴り響く。
「惣吉様、貴方の肉棒をしゃぶらせてください......」
四肢を枷で拘束されているので、惣吉に性器を犯してもらうことはできないが、口で奉仕することは可能だ。
「ああ、そのつもりで来たんだよ」
ユキは、床に這いつくばり、首を傾げて男の勃起した亀頭を舌で舐め回す。
「ああ、美味しい......。旦那様のくれた落雁よりも美味いよ」
「ああ、俺もお前の舌遣いは絶品だ......もうイッちまいそうだよ」
こうして二人の雄雌が牢獄という隔絶された空間で恥業に溺れていることを、余人は知る由もなかった......。
(続く)
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