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the toriatamachan season3
女の子にとって、「美醜のヒエラルキー(それによって生まれる優劣)」は強大だ! 「酉年生まれゆえに鳥頭」だから大事なことでも三歩で忘れる(!?)地下アイドル・姫乃たまが、肌身で感じとらずにはいられない残酷な現実――。女子のリアルを見つめるコラム、シーズン3は「わたしのすきなこと」にまつわるアレコレです。それで昨夜は『パープル・レイン』を聴いた。パーティが終わって、人がまばらになってから、DJの人がレコードをそっとターンテーブルに置いた。レコードはきちんと回転して、終わるべき時にきちんと終わった。
少し前の昼下がり、父が久し振りにレコードプレイヤーを引っ張り出してきた。三軒茶屋の店先に、三千円で投げ売られていたレコードプレイヤー。やっと拾われたのに、数カ月で押し入れに仕舞われたまま、何年もほったらかしにされてた。
父はコレクションのレコードを聴きながら、「懐かしすぎる」とか、「いくらなんでも音が悪い!」とか、ひとしきりはしゃいだ後、すぐに「レコード、面倒くさくてすぐに飽きるよ」と言い残して、寝てしまった。
それで、手間のかかることが好きな私は、最近レコードを聴いている。そっとターンテーブルに乗せて、傷つけないように針を置いて、A面が終わったらひっくり返す。次のレコードを選ぶのも好きで、気分じゃない曲をじっと聴いている時間も嫌いじゃない。
パソコンやケータイで音楽を聴いていると、時々どんな音楽も欲しくなくなる。インターネットには洪水みたいにたくさんの音楽があって、再生する前から胸焼けを起こしそうになる。手に入るものには興味が持てなくて、いつでもそこにあると思ったまま、いつの間にかなくなっていて、なくなったことにも別に気が付かない、ということが、インターネット世代の私の人生には、きっとたくさんある。そうして鈍感になっていった感覚に、レコードを触っていると風が吹き抜ける。
最初のレコードは沖縄で買った。何か良質なポップスがいいなと思って、太陽とほこりの匂いがするレコード屋を隅から隅まで見てまわった。それで結局、沖縄まで来たのに原田真二のファーストアルバムを買った。それと、ジャケットがポップなコラージュになっている須藤薫のアルバム。
日が暮れてすぐ、レコードプレイヤーがあるバーに行った。須藤薫のレコードはB面の一曲目が良くて、マスターも「いいレコードを買えたね」と褒めてくれた。B面をすべて聴き終わるまでに、ハブ酒を三杯飲んだ。マスターも原田真二のレコードを持っていると言う。
大きいジャケットの中で王子様みたいに笑っている原田真二のレコードは、父も持っていた。ほかにも昔買ったレコードを見せてくれた。ソノシートもあった。ソノシートを見ていると、子供の頃に駄菓子屋で買った紙せっけんを思い出して、心許なくなる。溶けちゃうんじゃないかと思って。同時に嬉しくてどきどきする。限りあるものを、一回ずつ大事に聴けることに。
まだ私が父の愛用しているスピーカーより小さかった頃、おもむろにカバーを外して、中央の膨らみを人差し指でへこませた。ふたつあるスピーカーの両方とも。ボタンを押すのが好きな子供だった。スピーカーだけでなく、父も当然、おおいにへこんだ。私は覚えていないけれど。
レコードは手間がかかる。でも、大事なスピーカーをへこませた、手間のかかる私とも、今日まで暮らした父なので、多分レコードもまたすぐに聴くのだろう。
手間のかかること、回転は止まらなくて、音楽が鳴り続けること、そして鳴り続けている間は、そこそこに楽しいこと、終わるべき時にきちんと終わること。レコードも人生も、そこが素晴らしいと思う。
文=姫乃たま
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16.06.27更新 |
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