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I want to live up to 100 years
「長生きなんてしたくない」という人の気持ちがわからない――。「将来の夢は長生き」と公言する四十路のオナニーマエストロ・遠藤遊佐さんが綴る、"100まで生きたい"気持ちとリアルな"今"。マンガ家・市田さんのイラストも味わい深い、ゆるやかなスタンスで贈るライフコラムです。今年の夏も同級会があった。中学の同級会だ。
進学したり結婚したりして田舎を出ていったクラスメイト達は、私みたいに月に2回も実家に帰ってる暇人と違って、お盆か正月くらいしか帰省する暇がない。だから少しでも多くの友達が参加できるよう、地元に住む世話好きの子たちがその時期を狙って企画してくれる。
今年の参加者は12人だった。男女の比率は半々。まあ、毎年だいたいそんなものだ。クラスメイトの1人が経営しているピザレストランで会費を5000円払って飲み食いし、いい具合に酔いがまわってきたところでいつものスナックに流れる。
学生時代友達の多かった子は参加率が高いとか、東京で忙しく働いてる子は来ないとか、そういうことは基本的にない。来る人は毎年来るし、来ない人は毎年来ない。
中には、学生時代は内気でほとんど口をきかなかったのに、同級会には毎年必ず顔を見せるなんて子もいる。彼とは毎日顔を突き合わせていた学生時代よりも、卒業してからのほうが間違いなくたくさん話してるんだから、不思議なものだ。
かくいう私は「同窓会に行くタイプ」である。
実家でニートをしていた時期もほとんど毎回参加していたのだから、我ながらずうずうしいというか、なかなかの心臓だと思う。
「三十路過ぎ・独身・無職」という三重苦の状況が恥ずかしくないはずはないし、そもそも住んでる地域が同じだってだけで一緒になった中学校の同級会なんてそんなに楽しいものでもない。(だから、同級会に来ない人の気持ちもわかる)。
でも、引きこもり体質であまり友達も多くなかった私は、そんなお誘いでもないと家族以外の社会に触れる機会がなかった。
1年か2年に1度開かれる同級会で、1年分の酒を飲み、1年分の人間と話し、1年分の社会に触れる。あの頃はそうやってストレスを発散していたのだ。
30代半ばになってAVライターの仕事を始めてから、いろんな人とやりとりする機会が増えた。
東京で出会ったネット関係・エロ関係の人たちは、趣味の方向が似通っているうえに話題も最先端なので、飲みに行ったりするとすごく楽しい。「これ言ってもどうせ通じないだろうな~」なんてことは考えず、あうんの呼吸で話せるからなんともいえない自由を感じる。ああ、ここが自分の居場所だなと思う。
じゃあもう同級会は用済みになったのかというと、そうでもなかったりする。むしろ、何者でもなかったあの頃より、今のほうがずっと「同級会っていいな」と思うようになった。
例えば、中学生の頃クラスで一番太っていたAちゃん。
彼女は猛ダイエットの末、合コンでゲットした彼と結婚したものの、旦那が家にお金を入れてくれないとかで子供が生まれてすぐ離婚した。子供が恋人みたいなもんだから、とすっかり戻ってしまったぽっちゃり体型で言う。
お母さんになりたくて30代後半で駆け込み結婚し、それからずっと不妊治療を続けていたMちゃん。同級会に来てもウーロン茶しか飲まない彼女が珍しくお酒を口にしていたから「今日は飲めるの?」と聞いたら「アルコール解禁! ようやく諦めがついたから」と笑った。
そうかと思えば、子供が2人いるK君は「俺、Mじゃないかと思うんだよ。50歳までになんとしてもM性感に行きたいんだけど、いい店教えてくれないか?」と真顔で尋ねてくる。「やらずに後悔したくないんだよ~」とくだをまきながらも、携帯に奥さんから着信がくるとシャキッと背筋が伸びる。
みんなそれぞれの44歳を生きている。でも面白いのは、まったく別々の人生なのに、どこかシンクロする部分があることだ。
どうしてだろう。趣味も好みも今いる環境も違うのに、ネットで話題のエッセイより、同じクラスタの人たちがSNSで闘わせている議論より、ずっと生々しい実態を持って入ってくる。同じ年に生まれ、同じ環境で育ち、同じ時代を生きてきたというのは、それだけで黙っていても通じ合う何かがある。もしかしたら不妊治療をあきらめたのは私だったかもしれない。一度くらいすごいプレイをしてみたいと身悶えているのも私かもしれない。そんな不思議な感覚だ。
二次会のスナックでしこたま飲み、もうそろそろお開きかなと思ったとき、チイママってあだ名のHちゃんがスッと隣の席に来て、こっそり「年下のアメリカ人と不倫中なんだ」と教えてくれる。中卒で水商売に入ってもう30年になる彼女はものすごくスタイルがいいけれど、酒とタバコのせいでものすごいダミ声だ。
「彼ね、先月国に帰っちゃったからもう会えないけど、それでもいいの。実は私すっごいストーカー体質でさ、前の彼氏のこと3年くらいひきずってたんだけど、彼が好きって言ってくれて救われたから。ねえ、ずっと曇り空だった人生に光がさす感じ、わかる? 遠藤さんだったらわかるでしょ?」
そう言って見せてくれたiphoneの画面では、顎の割れたいかにもチャラそうな外人が裸でピースしている。
「他の人には言わないでね。このこと誰にも言ってないんだから。絶対だよ!?」
しょうがないなあ。そう思うけど、私はHちゃんのことを笑えない。
酒を飲むのが仕事のくせに泥酔して、つい誰にも言えなかった恋の話をしてしまう彼女の気持ちが、自然に理解できたからだ。
何と言っていいかわからなかったので「かっこいいじゃん」と褒めたら、「ま、外人なだけだけどさ」と笑っていた。
じゃあ、またね。「もう一人の私」たちはそう言って、一人また一人と闇の中へ消えていく。私も、誰もいない夜道を千鳥足で帰る。
次の同級会は来年か、それとも再来年か。その頃にはきっとチイママにも新しい男ができてるはずだ。
文=遠藤遊佐
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15.09.27更新 |
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