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I want to live up to 100 years
「長生きなんてしたくない」という人の気持ちがわからない――。「将来の夢は長生き」と公言する四十路のオナニーマエストロ・遠藤遊佐さんが綴る、"100まで生きたい"気持ちとリアルな"今"。マンガ家・市田さんのイラストも味わい深い、ゆるやかなスタンスで贈るライフコラムです。恐れていたアレがついに来てしまったらしい。
そう、"更年期"である。
夏真っ盛りの頃にやって来た生理が、2週間、3週間たっても一向に終わらず、「こわい病気だったら困るから来週になったら婦人科行くか」などと思っていたら、更年期の症状で一番ポピュラーだと言われる"ホットフラッシュ"が始まった。
間違いない、私は更年期に突入した。
以前この連載でも書いたように、私は更年期ってものに対してかなりビビっていた。10年程前、子宮筋腫で体を更年期状態にする治療を受けたとき、けっこうヒドイ鬱状態になったからだ。
「今度あんなふうになったら、本格的に病む前に小動物でも飼おう......」と結構真剣に考えていたのだが、意外にも実際に更年期が始まってしまうと気分的に忙しくて落ち込んでいる暇がない。"更年期ハイ"とでもいうのだろうか。
ここ数週間は、インターネットで更年期女性の体験談を読んだり、症状が軽くなる方法を調べたりするのが日課になっている。
パソコンの前に座り、ホルモンが乱れているとき特有の沈むような眠気をこらえながら「プラセンタ注射が安い病院」を探していると、ふとある人のことが頭に浮かんだ。
何年か前よく飲みに行っていた男友達と、その奥さんだ。
男友達は30代で奥さんは彼よりも15歳くらい年上。そのときはもう今の私くらいの年齢だったと思う。
ある日飲みにいった安居酒屋で、彼から「実は今、かなり年上の女の人と付き合ってるんだよね」と相談を受けた。
「子供が欲しいから結婚してって言われてるんだけど、どう思う?」
私と夫も年の差夫婦だから話しやすかったのだろう。腹を割った感じで話してくれたので、私も真面目に答えた。
「彼女の年齢だと普通に妊娠するのは難しいし、40歳を過ぎると障害のある子が生まれる可能性も高いっていうよ。何があっても2人で頑張る覚悟があるならいいけど、そうじゃないならやめたほうがいいんじゃない?」
口に出しては言わなかったが、40歳を何年も過ぎているのに簡単に「子供が欲しい」なんて言えてしまう彼女さんのことを、ちょっと警戒する気持ちもあった。
私の周りには彼女さんよりも年下なのに不妊治療で辛い思いをしているアラフォー女性が何人もいたし、私自身にとってもそれは微妙な問題に違いなかった。言葉は悪いが、要するに「その人、いい年して何もわかってないんじゃないの?」と思ったのだ。
子供を産まないまま更年期を迎えてしまったけれど、私の頭の中には20代の頃からなんとなく"出産リミット"という概念が存在していた気がする。子宮筋腫の手術をすることになったとき、主治医に「出産予定がないなら全摘出という選択肢もありますよ」と言われ、妊娠についていろいろと調べたからだ。
高校の生物の時間に「40代になるとダウン症の子が産まれる確率は100人に1人」と教えられたことも、くっきりと脳裏に焼き付いている。
何年か前、少子化対策の一環として妊娠適齢期の必要知識なんかが載った『女性手帳』の配布が検討されたのを覚えているだろうか。そのとき私は、当の女性からの反対が多いと聞いて驚いた。
確か「そんなものを配る前に子供を産みやすい社会にすべきだ」とか「女性だけに意識を変えろというのはおかしい」とかいうのが主な理由だったと思う。でも実際に、35歳を過ぎたら妊娠しづらくなるのは事実だし、それをしっかり認識していない女性がいるなら教えてあげたほうがいいんじゃないか、と思ったのだ。
少子化を食い止めるために女は子供を産む道具になるべきだ、と言ってるんじゃない。子供がいる人生といない人生、どちらにもいい部分と悪い部分はある。メリットもデメリットも全部知っていて選ぶのならばいい。でも、ぼうっとしているうちに時間だけがどんどん経っていってしまうとしたら。
私だったら、子供ができないことよりも、何も知らないまま、選ぶことすらできないまま産めなくなることのほうが、ずっと怖い。
あのとき彼女さんがもし『女性手帳』を手にしていたら、一体どうしただろう。
結局それから1年後くらいに、男友達と彼女は結婚した。
結婚式で初めて会った彼女は40代半ばとは思えないほど若く可愛らしい女性だった。結婚式の後は男友達が予約したパークハイアットのスイートで初夜を過ごすのだと教えてくれた。
同席していた夫に「バブルを経験してる女は、やっぱり違よねえ!」と言ったら「羨ましい?」と茶化されて、ドキッとした。
確かに羨ましかった。
パークハイアットのスイートに泊まれることがじゃない。そんなふうにいくつになっても、なんのためらいもなく"女"でいられること。私が怯えてきたカウントダウンの声を聞かずに笑っていられることが。
羨望と嫉妬。そして少しの憐れみ。
白いウエディングドレスを着て幸せそうに笑う姿を見て、彼女はまだ子供のいる完璧な結婚生活を思い描いているのだろうかと、少しいじわるな気持ちで思った。
結婚式後、男友達からは一切連絡がこなくなった。離婚したとも子供ができたとも聞かないから、きっと2人で仲良くやっているんだろう。
私よりも何歳か年上だった彼女さんは、今頃どうしているのだろうか。もしかしたら私と同じように、更年期の真っ最中かもしれない。
昼寝にゲームに寝起きのアイスクリーム。急に押し寄せてきた体の不調をやりすごそうと、私は今日もどっぷり自分を甘やかす。
私が自分を甘やかすように、彼も15歳年上の奥さんを甘やかしているんだろうか。もう知る術もないけれど、そうだったらいいなと思う。
文=遠藤遊佐
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15.10.24更新 |
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