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the toriatamachan season3
女の子にとって、「美醜のヒエラルキー(それによって生まれる優劣)」は強大だ! 「酉年生まれゆえに鳥頭」だから大事なことでも三歩で忘れる(!?)地下アイドル・姫乃たまが、肌身で感じとらずにはいられない残酷な現実――。女子のリアルを見つめるコラム、シーズン3は「わたしのすきなこと」にまつわるアレコレです。いまでも時々、まりちゃんの恥ずかしそうな横顔を思い出す。窓際の後ろのほうの席で、クリーム色のカーテンが風に膨らんでいた。私は廊下側の席に座っていて、右隣に金魚の水槽があった。
家族って、それぞれ違う形をしている。だからきっと、私の家も他の人から見たら少し変わっているのだろう。
たとえば、お姉ちゃん。私は弟と二人兄弟なので、私が言っているお姉ちゃんとは、父親の姉のこと。つまり伯母である。弟が生まれる前、私は祖父母と両親と、お姉ちゃんと暮らしていた。
両親の姉は伯母、妹は叔母と表記することを、祖父が亡くなった時に初めて知った。公の場で文章を書く時に、お姉ちゃんと書くわけにはいかなかったから。まりちゃんのペリペリみたいに。
私が生まれた時、伯母はまだ20代だった。それでも伯母であることに変わりはないのだけど、おばさんと呼ぶのはあんまりなので、私の母親がお姉ちゃんと呼ぶように教えたのだと思う。自分が呼んでいるみたいに。
人の伯母という人物に会ったことがないので、他の人が伯母をなんて呼ぶのか知らない。伯母さんって呼ぶのだろうか。名前で呼ぶのかもしれない。私みたいにお姉ちゃんって呼ぶ人は、どれくらいいるのだろう。
20代だった私のお姉ちゃんは、いま50代になっている。今でも年齢より、うんと若く見える。変わらず可愛いし、変わらず結婚していない。だから私にはいとこがいないし、東京には親戚も少ないので、お姉ちゃんとは年の離れた姉妹みたいだと思って生きてきた。小さい頃は一緒に暮らしていたからお互いに遠慮しないし、ふたりとも少女趣味なものが好きだから、昔はよくキティちゃんのシールを交換していた。
弟が生まれてから、私は両親と4人で暮らし始めた。永遠に変わらないと思っていた家族の形も、時間が経てば変わっていく。お姉ちゃんはそれからずっと祖父母と3人で暮らしていたけど、まず祖父が病気になった。お姉ちゃんは働いて祖父母を養いながら、祖父の介護も一番熱心にしていた。祖父が亡くなった時は、「もっとお世話したかった」と言って全身で泣いた。一生懸命で純粋な人なのだ。
最近、それから1年が経って、悲しみも一段落した祖母が急激に弱々しくなった。日々の寂しさが身に沁みるようになって、一日中眠るようになり、眠れないと不安になるようだった。祖父が亡くなってから、四十九日だとか、お彼岸だとか、家族で集まる機会が増えていたので、私も油断してそれ以外で祖母と顔を合わせる時間が減っていた。それで体まで悪くならないうちに、私達の家の近所まで引っ越してきてもらおうという話になったのだ。
引っ越しは主にお姉ちゃんと、仕事の融通が利く私で行なわれた。不動産の行き帰りにお茶をしたり、半月ほど泊まり込んで荷造りをしたり、昔みたいにふたりでいる時間が増えた。
祖父母はふたりとも戦時中の物がない時代を経験しているので、前回の引っ越しではあれもこれも要らない物を全部持って来ていた。今回の引っ越しでは、あれもこれもどっさり捨てた。祖母も祖父が亡くなってどうでもよくなったみたいだった。その代わり、自分のコートや食器はたくさん捨てたのに、祖父のジャンパーや囲碁盤はダンボールに詰めるようにお願いされた。つられるようにお姉ちゃんもたくさん物を捨てていた。
何度目かの不動産の帰り道、物を捨てて良かったのか聞くと、「死ぬまでに整理しておきたいから」と、お姉ちゃんは言った。あとはなるべく迷惑かけないように死にたいと。迷惑かけてよ、と思う。私の近所の喫茶店で。これからお姉ちゃんとおばあちゃんが引っ越してくる家の近くで。
「あなたには家族がいるんだから」と、お姉ちゃんは言った。
お姉ちゃんにとって私は姪なのだ。私達、姉妹じゃないのだ。
私はもっと先のことを考える。弟に子供が出来て、その子に頼って死ねるかどうか。たしかに少し変な、申し訳ない感じがする。
引っ越し代は高かった。複数の会社で見積もりを比べるように言ったのに、お姉ちゃんが不動産で勧められるがまま業者にお願いしたからだった。引っ越し当日に、少々ぎょっとしながら見積もりの紙を見ていたら、隣でお姉ちゃんは可愛いぽち袋に入れたお札と、ペットボトルのお茶を、引っ越し業者のお兄さん達ひとりひとりに渡していた。一生懸命で純粋な人なのだ。
電車に乗る自信がないという祖母と、まだお墓が見つからない祖父の遺骨を抱えて、タクシーに乗り込んだ。お姉ちゃんは電車で来るという。荷物が多そうだったので、タクシーに乗せるよと言ったら断わられた。乗せたらいいのに。
まだダンボールだらけの新しい部屋で横になった。箪笥の上に郵便ポストの形をした小さな貯金箱があって、あんなこと言ってた割にどうでもよさそうなもの残してるじゃんと思いながら手に取ったら、私の古いプリクラが貼ってあった。キティちゃんのシールと交換したやつだ。私達は変わってしまったし、これからも変わっていく。
お姉ちゃん、私は姉妹だったと思ってるんだけど、お姉ちゃんはどうだったのかな。
文=姫乃たま
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