THE ABLIFE April 2019
浜不二夫式・常識ある大人の為の肉筆紙芝居 第6弾
子宝を授かりたい夫婦がすがった黒装の怪しき僧侶。満願成就のためには前世の因果を清算しなければならないと言うのだが、その方法は妻がひとまず地獄へ堕ちて行を積むというもので……。「女囚くみ子」シリーズのマニア作家・浜不二夫氏が描く大人に向けた紙芝居。
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【序】
越後上布(えちごじょうふ)と呼ばれる麻織物を中心に、絹織物から木綿物まで手広く商う越後屋は、今日も繁盛していた。主人の藤兵衛は二代目で、商いは律儀実直、悪い遊びもせずに、親が残したまずは大店といえる店を堅実に守ってきた男で、商売熱心が過ぎたか嫁取りは遅れて三十に近かったが、縁あって国許からお美和という十八才の娘を嫁に迎えた。
それから数年、夫婦仲も良く商売も順調、格別の不足はない藤兵衛にとって唯一の悩みは、お美和との間に子が出来ないことであった。男盛りの藤兵衛と近頃味を覚えた若いお美和、夜の営みが間遠という筈はなく、奥付きの女中が、
「旦那とお内儀(かみ)さん、ゆうべもよっぴてだよ。当てられて寝られやしない」
と愚痴るほど励んでいるのだが、一向に妊娠の気配がないのだった。
早く跡継ぎを作って商売を教え込まなければとやや焦り気味の藤兵衛は、精のつく食物や薬を求めるのはもとより、子授けに霊験(れいげん)があるという神社仏閣がないかと、相手構わず訊ね回り、遠近を問わずにお美和に参詣させて子授け祈願をさせるのであった。
そんなある日、藤兵衛のもとへ見知らぬ男が密談を申し入れて来た。
「こちらの旦那様が子授けのご利益を求めていらっしゃると伝え聞きましたのでな」
言われた通り美和を伴って、指定された場所に出向くと、そこには、その男の他に墨染めの衣を纏った僧侶の姿があった。座が定まると、僧は重々しく合掌してから語り始めた。
「拙僧は、さる有難き子授けの秘宝を修験する仏門の役僧でござる。この者より、そなたらが子宝を授かりたいと心より願っておられると聞き及んだので、大慈大悲の御仏のお救いを授けようとまかり越したのじゃ。そもそも、そなたら俗世の衆生(しゅじょう)は男女が交われば子が出来ると思うておるが、それが大きな誤り。子を授かるか否かは、仏果、前世の因縁によるものなのじゃ。特に女性(にょしょう)が前世に罪業を重ねていたならば、いくら励んでみたところで子宝に恵まれることはない。拙僧が当山に伝わる有難き秘法をもって占ったところ、ご妻女、美和どのには前世の重き罪障がとりついておる。現世の美和どのが、いかに貞操固く身を慎んでおられても、そこが因果の恐ろしいところ。前世の罪障を取り除かねば、何をどうしたところで子宝を授かることはあり得ぬのじゃ」
いつの間にか僧のかたわらには香炉が置かれ、妖しげな香煙が座に立ちこめていた。意識が半ば朦朧となった藤兵衛とお美和の耳には、僧の言葉がどこか遠い天上界から降りてくるように感じられていた。
「そなたらは、諸方の神社仏閣に子授けの祈願をしてきたそうじゃが、何の霊験もなかったであろう。当然のことじゃ。今、世にある寺や神社は何の法力も持たぬ、ただの飾り物。神仏を商売道具にしておるだけの偽物なのじゃ。そんなものをいくら拝んでみたところで何の功徳(くどく)もなく、罪障を背負ったまま死ねば地獄に堕ちて、針の山、血の池、見の毛もよだつ恐ろしき苦患(くげん)を受けねばならん。当山は全く違うのじゃ。当山の開祖は、名を秘しておられるが、深山幽谷に修行されること数十年、ついに悟りを得られて、この世と天上界始め六道を自由に往来せられ、地獄界の閻魔大王とも友達付き合いをなさっているお方なのじゃ。この開祖上人様が、そなたたちのように子が授からずに悩んでいる衆生を憐れまれて、閻魔大王ともご相談の上お授けくださったのが当山の有難い子授けの修法である。即ち、罪障のため懐妊出来ぬそなたのような女性を一度地獄へ送り込み、そこで罪障消滅の修行として閻魔大王から地獄の責め苦を頂戴する。いや、案ずることはない。そこはわが開祖上人様が閻魔大王によくよく頼んである。生き身の女性でも耐えられる程度の責めを三、七、二十一日ほど頂戴すれば、罪障は消滅してこの世に戻ることが出来る。さすれば、来世の極楽往生はもとよりのこと、今生においてはめでたく子宝が授かること、夢々疑いあるべからず!」
突然、僧の姿は金色の後光に包まれて天空高く飛翔した。畳にひれ伏した藤兵衛とお美和は、しばらく意識が遠のいていた。二人が気付いた時には、その部屋に僧の姿はなく、最初訪ねてきた男だけが残っていて、日取りや高額な祈祷料の寄進のことなどを藤兵衛と取り決め、最後に二人に、このことを他人に口外したら、夫婦ともに無間地獄へ永遠に堕とされるぞ、と厳しく念押しをして帰っていった。
金色の光に包まれて昇天した僧の姿。この世ならぬ奇瑞(きずい)を目の当たりにしたと信じている藤兵衛とお美和にとって、男の言葉を疑うことなどあり得べくもなかった。
店の者には、内儀はしばらく湯治に行くと告げられ、定められた日に以前の場所に出向いたお美和は、再会した役僧に薬湯を授けられ僧の読経を聞いているうちに、いつか深い眠りに落ちていた。
(続く)
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