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ニュースタイル・平安エロティカル曼荼羅4
New Style Heian Erotical Mandara [Ake no kaze fuku]
人の形をしてはいるが、常の人のなりではない。化生(けしょう)か、あるいは魔性か――。今昔物語を題材にとり、人の世から外れた者たちの凄絶な闘いを描く空前の平安エロティカル曼荼羅。話題作「口中の獄」と接続する、妖と美が渦巻く異端の世界とは。作家・上諏訪純と絵師・常春のカップリングでお届けする待望のアブノーマル・ノベル第4弾!!
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【11】獣淫地獄

「何するの!? 止めなさい!!」

そよごはようやく体が動くことに気づいたが、どちらにしても朱猿には敵うはずもなく、あっという間に若狐や瑠璃の狐と同じ、丸裸にされてしまった。いや、正確にいうなら丸裸ではない。途中でもどかしくなったのか、朱猿は、彼女の衣を引き裂いた。その布切れが腰のあたりに痛ましく巻きついてはいる。

「ひっ!」

朱猿はそよごの両足を抱え上げると、陰部に顔を近づけてしげしげ眺めた。

「やだ! そんなとこ見ないでよ!」

今まで十分「使いこんで」はいたものの、そういう対象としていなかった朱猿に見られると、恥ずかしさがこみ上げてくる。手で隠そうとしたが、体の自由を奪われた状態では限界があった。

「そう、そこよ」

気がつくと朱猿の後ろに裸のままの若狐が立っていた。全身に染み渡った官能の余韻に肌はまだほんのりと桜色を残し、しっとり汗ばんでいる。若狐は朱猿の首筋に腕を回して、耳元で囁いた。

「そこにお前の精を注ぎ込むの。たっぷりとね」
「や、やだぁ!!」

そよごはもがいたが、がっしり抱え込まれた下半身はびくともしなかった。朱猿は自分の衣を、これもまたびりびりと引き裂いた。

見慣れていた、しかし今日ほど凶悪に見えたことはないどす黒い男根が、今まで何も教えられなかった恨みを晴らそうとするかのように怒張していた。先端からは気の早い透明な液が、涙のようにも涎のようにも溢れている。

亀頭がそよごの女陰に押しつけられた。だが、そよごの陰門は恐ろしさに硬く凍りついている。それに何といっても大きさの問題があった。朱猿が押しこもうとしても、そよごはなかなか受け入れられなかった。

「やめなさい! 言うことが聞けないの!?」

そよごは必死で叫んだが、朱猿はなおもねじ入れようとする。その太さといえば、そよごの腰のおよそ三分の一ほどはあるだろう。

「あぁっ、痛い! 無理だってば......壊れちゃう!!」

そよごの命令はだんだん悲鳴に変わっていった。朱猿に掴まれた太股の膨らみに爪が食い込んで、血がひとすじ、ふたすじ流れ出しているのが見えた。

「朱猿......お願い、もうやめて......ねぇ」

ついには涙を流しながら必死に訴えたが、朱猿は何の反応も示さなかった。朱猿の顔からは表情の一切が消えていた。ただ目だけが獲物にとどめを刺す瞬間を狙っているかのように、爛々と気味悪く燃えていた。

――まるで獣だ......

初めて会ったときでさえ、朱猿はもっと人間らしい顔つきをしていた。それから絵馬や真済と暮らして、そこに優しさや寂しさととれるようなものが重なった。だがもしかしたら、この獣そのものの顔が、ずっと山で生き、そよごに捨てられれば山で一人で死んでいかねばならない運命を背負った朱猿の本来の顔なのかもしれなかった。

「お侍さま......」

いつの間にか水干を纏い、少し離れたところで胡坐をかいてこちらを眺めていた瑠璃の狐に、そよごは手を伸ばした。彼は、朱猿から離れて自分にもたれかかった、こちらはまだ裸のままの若狐の肩を抱いていた。

「助けて......」

だが、その手が握り返されることはなかった。

そよごの絶叫があたりに響き渡った。朱猿の野太い男茎が、ついにそよごの女門にめり込んだのだった。体が縦に裂けるような痛みとともに血が噴き出したが、皮肉にも出血は朱猿の強暴な腰遣いを助長し、さらなる激痛でそよごの花芯を何度も打ちのめした。

「痛い!! 朱猿お願い、やめてったら!! 痛い!!」

ぐちゅ、ぐちゅと水っぽい音が体の芯から立ち上っているのが聞こえる。朱猿はその体勢のままそよごの左の乳房を掴んで鋭い歯で噛りついた。乳首を吸われたが、愛撫されているというよりはこのまま乳房ごと食いちぎられそうだった。

気が遠くなりそうな痛みに襲われながら、そよごは、瑠璃の狐と若狐が暗がりに去っていくのを見た。「行かないで......」と声に出した瞬間、今までよりもさらに激しい、怒り狂ったような突きが子宮口に叩きつけられた。

「ああああぁぁっ!!」

二匹がいなくなると狐火がひとつひとつ消えて、あたりは完全な暗闇に包まれた。後にはそよごの呻きと、朱猿の荒い息遣いだけが残った。やがてそよごは、息苦しいほどに濃密な闇の中で、どろりと熱いものが胎内に大量に注ぎ込まれるのを感じた。


時間は少し遡って、その日の、申の四刻(※1)頃のこと。所は検非違使別当(※2)の邸宅の一隅。

父である検非違使の判官、中原範政の影の代理としてそよご、朱猿、絵馬の身を預かった中原明兼は、父に宛てられた文を一瞥するや否や大きな溜息をつくと、すぐにその紙を丸めて投げ捨ててしまった。

「よろしいのですか、お父上宛ですぞ」

雑務を取り仕切る役職である少志(しょうさかん ※3)の男が、眉間を皺めて捨てられた紙を拾った。

「いいのです、私が父から預かった案件についてですから」

明兼が範政の補佐についていることは知っていたから、少志はあえてそれ以上追及しなかった。

文は美濃を拠点とする傀儡女を束ねる長者からだった。今年の夏に、手ずから育て上げた傀儡女に同胞の傀儡女三人を殺された上、稼ぎ頭であった傀儡女を誘拐されたと駆け込んできた人物である。

彼女は一連の出来事はすべて赤い髪と目をした巨躯の化物が手を下したのだと訴えた。どういう術を使ったのか知れないが、お尋ね者となった傀儡女がその化物を操ったのだという。最初は誰も信じなかったが、その場にいた者たちに聞き込んでみるにつれ、化物はたしかに存在していたのだとわかった。

しかし、化物と傀儡女たちの行方は杳として掴めず、国から国を漂泊する傀儡女たち一行は仕方なく一旦京を出た。文は捜査の進捗について問う内容だった。このような文が送られてきたのは一度や二度ではなく、彼女たちが京を離れた夏から現在まで十通以上は届いていた。

急かされるだけでも面倒だというのに、今回の手紙には、正月には京に戻る故、判官本人は無理にしても、できれば陣頭の指揮をとっている看督長に目通りを願いたいという旨が書かれていた。接見の場を用意するのは億劫ではあっても問題はないが、京をうろつかれて、放免たちと行動を共にしているそよごと朱猿を発見されたら厄介だった。検非違使庁が罪人をいわば勝手な都合で罷免扱いにしたことが明るみに出てしまう。

明兼は来年を引退の年と決めている父に、狐面の盗賊追捕という有終の美を飾らせたかった。しかし、へんげなどという噂も飛び交う怪盗たちは手がかりすらなかなか掴ませなかった。日々神経を衰弱させていく父を前に、明兼は焦った。範政の引退の理由は、公にはしていなかったが、じつは老齢と神経の疲弊を原因とする胸の病のためだった。

補佐をするにしても限界があると感じていたときに、化物とそれを操る傀儡女の居所が掴めたと聞いた。それで明兼はこの「やり方」を提案したのである。父は最初渋っていたが、数日沈思した末、「どちらにしても一筋縄でいく相手ではあるまい」と、ついに首を縦に振った。

噂が庁内や京のごく一部で留まっている分にはいくらでも揉み消しようはあるが、もしも世に大々的に流出するようなことがあれば、父は華々しい引退どころか判官としての立場を失うだろう。何しろ相手は被害者張本人である上に、国と男を跨いで生活する傀儡女である。しょせんは旅芸人、京を離れてしまった後のことはわかるまいと高をくくっていたが、世の中はそれほど甘くなかったようだ。

正月まではあと一月と少し。

――さて、何といって美濃の田舎に押し込めておくか。いや、そんな気弱なことでどうする。あの二人にさっさと狐面どもを捕らえさせればよいのだ。

とは思うものの、先日もまた取り逃がしたと看督長の清忠から聞くと、やはりとるべき策は安全策であるような気もしてくる。

曇らせたままの眉を開くこともなく、ふと半蔀の間から外を見ると、空はすっかり暮れなずんでいた。西の空がほんのり赤みを残してはいるが、あと四半刻もしないうちにあたりは冷たい灰藍色に包まれるだろう。

――......家に帰って考えるか。

明兼は少志が部屋を出た後に、捨てた紙をもう一度拾った。


「今日はお仕事がお忙しかったんですの?」

明兼が空になった杯を三回目に突き出したとき、絵馬が酒を注ぎながらおずおずと尋ねてきた。絵馬はなかなか減らない夕食の膳と、苦悩の色がうっすらこびりついた明兼の横顔を、さっきから交互に伺っていた。

明兼は絵馬に酌をさせながら一人で少し遅めの夕食をとっていた。父はもう床に就いている。

「お前ごときが心配するようなことではない」
「申し訳ありません。でも何だか、お顔の色がお悪いようですので......」

明兼は注がれた酒を一気に飲み干そうとしたが、途端に「何のつもりだ」と、杯をつき返した。酒は半分も注がれていなかった。

「もう酒がなくなったわけではあるまい」
「はい、まだございますが......今夜はあまりお過ごしにならないほうが......」
「お前は何様のつもりだッ!」

思わずかっとして怒鳴りつけると、絵馬はびくっと身をすくませたが、それでもやはり酒を注ごうとはしなかった。ただ震えながら、「申し訳ございません」と額を床に擦りつけるばかりだ。

罪人ではないので獄に入れておくわけにもいかなかった絵馬は、そよごや朱猿と引き離されてから、範政と明兼の自宅に軟禁されていた。

明兼からしてみれば、絵馬は珍妙な存在だった。人質として連れてこられたからには、狭い部屋の中で朝な夕な泣き暮らすものだろうと思っていたのに、数日経つと、「何もすることがないので、せめて私にできるお手伝いを......」と、端女とともに家の雑用を片付け始めた。誰が頼んだわけでもないのに、である。

「私は賤(しず)の女(め)ですから、上げ膳据え膳の日々はどうにも居心地が悪いのです。それに動いていたほうが、何かと気が晴れますので」

とは言うものの、暇をつぶすとともに恩と媚も売っているのだろうと、最初、明兼は冷めた目をしていた。しかしその労働の様を観察していると、絵馬はとても恩を売っているとは思えないほど「抜けていた」。洗濯物を風に飛ばしてしまったり、水拭きの桶の水をこぼして床を水びたしにしてしまったり、最初から何もしないほうがよっぽど恩を売ることになるのではというぐらいだ。だが、朗らかさが欠点を補って余りあるのだろう、周囲、特に子供や老人たちには慕われて、始終袖を引っぱられていた。

――ほぅ、面白い。

もともとが歌舞と容色で人を慰める傀儡女でもあるし、傍に置いておいたら心が安んずることもあるかもしれないと、明兼は彼女にそこそこの衣を着せ、女房がわりに仕えさせてみることにした。

範政は明兼の酔狂を快しとしなかったようだが、一言、二言、小言を漏らしただけだった。明兼自身も、おのれの冷徹さには自信があった。傀儡女に女房の真似事をさせて弄ぶのと、彼女を人質として扱わなければいけない本分の間には最初から厳然たる一線が引かれており、混同するべくもないことだった。

「過ぎたことを申し上げているのは重々承知でございます。ですが、明兼様のお身が案じられて......」
「わかった、もうよい。そんなに言うならここまでにしよう」

舌打ちとともに杯を膳の上に置くと、絵馬はようやく面を上げた。そこには冬の寒さをじっと耐え忍んだ白梅が、ふと緩んだ春先の空気に、硬かった蕾をふわりと開いたような安堵の微笑が広がっていた。

「よかった。では今、かわりに白湯をお持ちします。こんな悪いものは、もうどこかにやってしまいましょうね」

絵馬は置かれた杯を白菊のような手で摘み上げると、早々に部屋を出て行った。手を叩いて控えの女房か下女を呼べばいいのに、何度教えてもできない。主の膳に断わりもなしに触れることも言語道断だったが、何だかもうどうでもよくなった。

絵馬が座っていた場所に、明兼はちらりと視線を落とした。

――諸悪の根源を忘れていってどうする。

そこには、まだ酒が並々と入っているはずの瓶子が置かれたままになっていた。明兼は瓶子から直接酒を飲もうとしたが、少し考えて、伸ばしかけた手を止めた。

絵馬はしばしば、明兼の癇癪を恐れつつ、時には半泣きになりながも、彼の夜更かしに意見し、偏食に意見し、使用人に無理をさせがちなのに意見した。

――......まったく、人質が何のつもりだ。

明兼は母も乳母も幼いころになくしている。だからよくはわからないが、これではまるで母のようではないかと思うこともある。

明兼は苦笑した。それからまわりに誰もいないことを確認すると、今度は小さく溜息をついた。

――せめて常の女のように抱けたら、こんな妙な心持ちにもならなかったろうに。

絵馬が女の心を持ちながら、翡翠を産むという特異な男の体を備えていることは、傀儡女の長者の訴えがあったときに聞いていた。明兼は男色の趣味はまったくなかったし、翡翠にも大して惹かれなかったが、余人を凌ぐ美貌にはわずかに心を動かされ、一度だけ酒の後の戯れに試してみようとしたことがあった。家仕事も明兼への意見も所詮は媚でしているのだろうと軽んじていたから、水心には魚心と寝所に呼びつけた。

しかし、なま白い腰を引き寄せて、いたましくすぼまって震える未知の扉を前にして、彼の男の部分は本来の役割を果たせなかった。口で奉仕させたときは硬くなったのだが、いざ犯してやろうと構えると萎えてしまった。何度か試してみたが、だめだった。

今でも服を着せたまま口で愛撫させることはあるが、それでは肉欲が完全に解消されたとは感じられなかった。絵馬が女で、男茎でめちゃくちゃに玉門をなぶり、肌のありとあらゆるところを貪って、享楽の果ての精で汚してやることができれば話はもっと単純なものになっていただろう。

「やっぱり浮かないお顔をしていらっしゃいます」

声がしたので振り向くと、湯気の立つ土器(かわらけ)を持って絵馬が戻ってきていた。

「これをお飲みになって、今日は早くお休みになって下さいませね」

絵馬が土器を膳に置いた。明兼は突然その手を取って己の胸元に引き寄せた。

「何を......」

怯えた目が明兼を仰ぐ。

「後で飲む。まずはこっちだ」

明兼は掴んだ手を胡坐をかいた股間に引き寄せた。

(続く)

※1  申の四刻 : 午後4 時半頃
※2  検非違使別当: 検非違使の最高責任者、長官
※3  少志: 法律の知識を生かした雑務係

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常春 2010年より少しずつ活動開始した新米絵描きです。1988年生まれ。和モノ怪奇モノ大好物です、座右の銘は【いやらしければなんでもいいわ!】です、宜しくお願いいたします。
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12.10.01更新 | 小説  >  朱の風吹く
文=上諏訪純 | 絵=常春 |