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I want to live up to 100 years
「長生きなんてしたくない」という人の気持ちがわからない――。「将来の夢は長生き」と公言する四十路のオナニーマエストロ・遠藤遊佐さんが綴る、"100まで生きたい"気持ちとリアルな"今"。マンガ家・市田さんのイラストも味わい深い、ゆるやかなスタンスで贈るライフコラムです。このあいだの日曜日。
久しぶりに外食でもしようということになり、少し離れた場所にあるイタ飯屋まで足を伸ばした。ちょうど混む時間で満席だったので、近くの神社でやっていた「あじさい祭り」を見物しながら待つことにしたのだけれど、そのときちょっとショックなことがあった。
せっかくだからと満開のあじさいの前で写真を撮ってもらったのだが、スマホの画面に映った私を見て夫がこう言ったのだ。
「あれ? ちょっとてっぺんがハゲてるかも......」
えっ? 嘘でしょ!?
生れつき毛量だけは人一倍、大学時代に初めてパーマ(ソバージュ)をかけた時はロットを巻く美容師に何度も溜息をつかれた私だ。夫の手からスマホをひったくってよくよく確認すると、確かに頭頂部のあたりが白くなっている。
しまった、よく考えたらもう2週間以上白髪染めをしていないじゃあないか。滅多に家から出ないせいで完全に油断していた......。
あからさまにへこむ私を見て、夫は「気にならないから大丈夫だよ。写真撮り直そうか?」と言ってくれたが、そういう問題ではないのだ。イタ飯屋に入ってからも「あのオバサン生え際が真っ白じゃん!」と思われていないか周囲の目が気になって仕方ない。家に帰ったら何はなくともまず白髪を染めなくては。駅前のマツキヨは何時までやってたっけ......? そんなことで頭がいっぱいで、結局大好きなほうれん草のゴルゴンゾーラソース(バゲット付き)もしっかり味わうことができなかった。
「自分の体の中で一番ダイレクトに老化を感じるのはどこか」と聞かれたら、私は迷いなく「白髪!」と答える。
体力がなくなったとか中年太りが止まらなくなったとかいうのも、もちろん大きな変化だろうが20代でも体力がない子や太っている子はいくらもいることを考えると、「=老化」と言うには若干曖昧だ。
でも、白髪は違う。いくら流行りのオシャレな服を着ていても、美魔女ぶって若づくりをしていても、髪の毛が白い女は有無を言わさず「初老エリア」に入れられてしまうんだからやっていられない。
そして困ったことに、私はものすごい白髪体質なのだ。
祖父も父親も30代のときにはすでにロマンスグレーだったというから、完全に遺伝だと思う。数年前までは抜いたりヘアマニキュアをしたりしてなんとかしのいでいたけれど、40代に突入したころからそんな小手先ワザでは到底隠せなり、白髪染めをするようになった。美容院でやってもらうと時間とお金がかかってたまらないので、最近ではドラッグストアでヘアカラーを買ってきてそそくさと自分で染めている。
しかし一度染めても1週間もすると「てっぺんハゲ」が顔を見せ始める。仕方がないのだと思いつつも、これから先何歳までこんないたちごっこを続けていくのだろうと思うと、正直うんざりしてしまう。
「さあ、明日あたり染めないともうギリギリだぞ。おばあちゃんの仲間入りだぞ」という時期になると、毎回私の中で"ナチュラル白髪推進派"と"若づくり推進派"のせめぎ合いが始まる。
「もうアラフィフだし、思い切ってこのままロマンスグレ子になっちゃえば? 自然なのが一番だよ」
「いやいや、40代で白髪頭はやっぱりひくって! それに男ならともかく女のロマンスグレーなんて非モテ決定でしょ!」
「白い髪より黒い髪のほうが美しいなんて誰が決めたの? 白髪頭の素敵な女性だっているし、白い髪のほうがいろんな色の服が似合うんじゃない?」
「センスのあるオシャレな人ならともかく、ユニクロばっかり着てるあんたみたいなぼんやり主婦じゃ、ただの"かまわないおばさん"になるのがオチだよ!」
頭の中で喧々諤々の議論を繰り返し、最終的に"若づくり推進派"が勝ってしぶしぶ白髪染めの儀式に入るのが、いつものパターンだ。
決定打になるのは夫の存在である。私は彼より10歳年上、ただでさえオバサン妻なのに、さらに上をいく"おばあちゃん妻"になってしまったらあまりにも不憫だ。せめて彼が心身ともにオジサンになるまでは若づくりし続けるのが思いやりというものじゃあないか。
しかし、少し前のこと。ナチュラル白髪推進派"と"若づくり推進派"の争いに一石を投じる出来事があった。
夫が急に「白髪染めない宣言」を発動したのである。
実を言うと彼も私と同じくらいの白髪体質で白髪染めの愛用者だったのだが、何を思ったのか「もうこのままでいく。ちょっと早いけどロマンスグレーを目指す!」と言い出したのだ。
そればかりか、私に対しても「別に染めなくてもいいじゃない。僕はそんなに気にならないよ」などと言う。
「彼もいいって言ってるんだし、2人してロマンスグレーになっちゃえば?」
「うん、まあそうなんだけど、でも......」
夫のほうからOKしてくれたのに、やっぱり躊躇してしまうのは何故なのか。
ほうれん草のゴルゴンゾーラソース(バゲット付き)の味すらわからないほど、周囲の目が気になってしまうのは何故なのか。
答えは簡単。「めんどくさい」とか「自然が一番」とか言ってはみても、まだ私は女でいたいのだ。街ゆく人に「あのおばさん」じゃなく「あの女の子」と思われたいのだ。
いつかは白髪染めをやめて、ロマンスグレ子になるときがくるだろう。でも、それは今じゃない。60歳になったときか、70歳になったときか......。
というわけで、もうしばらくはブツブツ言いながら2週間に一度の白髪染めを続けていくつもりでいる。
万が一、うっかり染め忘れて「てっぺんハゲ状態」の私を見かけてしまった方は、見て見ぬフリをしてくれると嬉しいです。
文=遠藤遊佐
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