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I want to live up to 100 years
「長生きなんてしたくない」という人の気持ちがわからない――。「将来の夢は長生き」と公言する四十路のオナニーマエストロ・遠藤遊佐さんが綴る、"100まで生きたい"気持ちとリアルな"今"。マンガ家・市田さんのイラストも味わい深い、ゆるやかなスタンスで贈るライフコラムです。今年もまた夏が来てしまった。
私は夏が嫌いである。暑いし、汗をかくし、ちょっと外に出ると蚊に刺される。油断するとすぐにものが腐るのもうんざりだ。でも、夏にもいい面が一つだけある。それは昼寝がバカみたいに気持ちいいことだ。
昼ご飯でお腹がいっぱいになった後、急に襲ってきた睡魔に負け、そのままカーペットの上に横になる。15分、いや30分だけ......と思ってはいるもののなかなか起きられず、気づけば2時間とか3時間とか経っていて「ああ、やっちゃった!」と思う。でも、その背徳感さえも気持ちいい。
蒸し暑い夏の午後、クーラーが効いた部屋で、あるいは網戸ごしにそよそよと風が入ってくる窓辺でまどろむのは至上の幸福だ。どこかへ連れていかれるような寝入りばなのあの感覚。起きたときのなんともいえないダルさ。もしかしたら、セックスよりも、オナニーよりも、風呂上がりのビールよりも気持ちいいんじゃないだろうか。
もちろん冬の昼寝も悪くはないのだけれど、いかんせん冬は日が短い。2,3時間眠って起きるともう外は日が落ちかかっていて少々申し訳ない気分になってしまうのが玉にきずだ。やはり、子供の頃の夏休みを彷彿とさせる夏の昼寝こそが"キング・オブ・昼寝"だと思う。
そんな昼寝大好き人間の私。
どうしてもやらなければならない仕事があるときは我慢しているけれど、そうじゃないときは午睡を楽しむのが日課になっている。
以前はここまでぐうたらじゃあなかった。昼寝癖が始まったのは、20代後半でそれまで勤めていた編集プロダクションを辞めて実家に帰ったのがきっかけである。
その頃実家には、体を壊して自宅静養していた父親と、80歳過ぎの祖母と、専業主婦の老母がいて、毎日当たり前のように昼寝をしていた。10畳ほどの居間には作りつけの物入れがあり、昼食を食べ終わると各々がそこからマイ枕を持ってきて横になる。そして、ふごーふごーといびきをかいて眠りだすのである。
最初、その光景を見たときは正直「なんじゃ、こりゃ!?」と思った。みんなが汗水たらして働いている平日の昼間に、大の大人が川の字になって昼寝とは......(しかも食休みに15分とかいうんではなく1、2時間はがっつり眠るんだから恐ろしい)。
数週間前まで東京であくせく働いていた私にとって、それは衝撃の光景だった。
でも、人というのは低きに流れるものである。私もすぐその習慣に慣れ、ファミリー昼寝に参加するようになった。睡眠時間が足りないわけでもないのに、真っ昼間からがっつり眠る背徳感と開放感を一度知ってしまうと、もうダメだ。それから20年、今ではもう昼寝なしではいられない体になってしまった。
自分がそうだから、世の中の人もみんな昼寝が好きに違いないと思っていたけれど、どうやらそういうものでもないらしい。
私と夫は好きなものや価値観がわりと似ているほうだと思っているのだが、こと"昼寝"についてだけは意見が合わない。
例えば、天気が悪かったり予定がつぶれたりして特にやることのない休日があったとする。そんなとき私はだいたい昼酒をかっくらい、いい気分のまま昼寝に突入してしまう。
対する夫は「せっかくの休みに昼寝するなんてもったいない」という考え方で、たまに睡魔に抗えず寝てしまったときなんかは、寝起きの機嫌がすこぶる悪い。「なんだかダメ人間になった気がする」らしい。
まあ、その気持ちもわからないわけじゃない。
でも、これから年をとったときのことを考えると、ある程度ぐうたらすることも必要な気がする(はい、自己弁護です)。
この前、実家に帰ったとき叔母が言っていたのだが、昨今の熟年夫婦の間では"夫源病"なるものがはやっているんだそうだ。
これは読んで字のとおり「夫が源になって起きる病気」で、夫が定年して四六時中家にいるようになると、その言動にストレスを感じた妻が体調不良に陥るのだという。何十年も家族のために働いてきたのにヒドイ言われようだと思うが、その気持ちはわからなくもない。
会社と仕事に人生を捧げてきた今のお父さん世代は、基本真面目で遊ぶことやぐうたらすることに慣れていない。だから、定年していきなり膨大な自由時間が手に入ると、何をしていいかわからないのだ。挙げ句、家事に口を出したり、妻の行動をチェックしたりしてしまう。
そういうタイプにこそ、私は昼寝を推奨したい。昼寝はお金がかからないし、健康にもいい大変ナイスなレジャーだ。死ぬまで働くことに決めているとか、定年したら打ち込みたい趣味があるとか、お金持ちでどんな遊びもやり放題だとかいうならいいけれど、そうじゃないなら今からぐうたら過ごすことに慣れておいたほうがいいんじゃないだろうか。
昼寝を楽しむコツは、なんといっても罪悪感を持たないことだ。
目が覚めたらまず「あー、気持ちよかった」と声に出して言ってみる。一度外に出て、大きく伸びをしてみるのもいい。それだけでグンと開放的な気持ちになれる。
昨日、夫はちょっとした野暮用があって久しぶりに有給を取った。
せっかくだからと2人で外に出てランチをしたのだが、帰ってきたら夫がそそくさと布団を敷きだした。
すわ、セックスレス解消か!? ......などと思ってドキドキしていたら、なんのことはない。「眠くなったから昼寝する」と言うので驚いた。
「え、昼寝キライじゃなかったの?」
「君がグーグー寝るの見てたら、平気になっちゃった......」
人をダメ人間呼ばわりしたことなどすっかり忘れて気持ち良さそうに眠る夫。
私もご相伴に預かってグーグーと午睡に勤しんだのは、言うまでもない。
文=遠藤遊佐
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