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the toriatamachan season4
女の子にとって、「美醜のヒエラルキー(それによって生まれる優劣)」は強大だ! 「酉年生まれゆえに鳥頭」だから大事なことでも三歩で忘れる(!?)地下アイドル・姫乃たまが、肌身で感じとらずにはいられない残酷な現実――。女子のリアルを見つめるシリーズ連載、シーズン4は「日常」にまつわるアレコレです。
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最近どういうわけか、複数人の男に囲まれると無性に腹が立つ。それがナンパしてきた男たちでも、仕事の打ち合わせでやって来たサラリーマンでも、知り合いが集まるただの飲み会でもなんでも、無性に腹が立つのだ。一時期、複数人でセックスするのにハマってたからかもしれない。複数人でいる男を見ていると、この後セックスしないといけない気持ちになって吐き気がする。複数人でするセックスの何が良かったんだろう。あれやってなんかメリットあったか? 驚くほど誰の顔も覚えてないけど、そう思うとめちゃくちゃに損をした気持ちになる。若かりし私の体、貴重な時間。じゃあどんな日々を送りたかったのかというと、さっぱり思い浮かばなくて、それでまた胸がムカムカする。

今日は友人が演奏するライブに誘われて、友人が出てくるまでにバーカウンターで酒を飲み過ぎ、ライブハウスの安いジントニックでひどく酔っ払って、あれはジンが業務用の安物なのか、生のライムの代わりに使ってる変な甘いライムコンクが粗悪なのかなどとうだうだ考えているうちに、友人の演奏は終わっていて、気づいたら出演者の打ち上げに巻き込まれていた。
客は全員帰っていったけど、いつの間にか演者も大半が帰っていて、ライブハウスのフロアには私と、知らないミュージシャンの男たちと、黒いテーブルと、ほとんど中身が氷水になっている結露したアイスペールと、鏡月のボトルと、いっぱいになった灰皿がふたつ取り残されていた。何時かわからないけど絶対に終電はもうなくて、フロアの電気は半分消されていて、私たちのいるテーブルだけがスポットライトを浴びているようになっていた。

バーカウンターの中ではライブハウスのマスターが新聞を読んでいる。だらだらと飲み続ける私たちに何も言わないどころか、一瞥もくれないでいた。まだ酒を飲みたい気もしたけど、テーブルに転がっているプラスチックのマドラーが、灰皿からこぼれた灰にくっついているのを見たら、飲酒したい気持ちが失せた。ガムかなんかの包み紙が濡れた灰皿の中に捨てられていて、その嫌悪感がそのまま男たちに移る。一緒にいる男たちが途端に気持ち悪い存在に感じられて鬱陶しくなった。

彼らの会話が演奏者にしかわからない実践的な内容になればなるほど、話がわからなくてぼうっとしている私に性的な目が向けられているように感じた。言葉の通じない外国人が私の知らない言葉で何か相談し合いながらナンパしてくる時と同じ。下心を見せて女に逃げられないように、互いに牽制し合いながら、男同士で牽制し合っていることにもう興奮している。
私は一瞬よく知らないこの男たちとみんなでセックスしているところを想像したけど、全然気持ちが盛り上がらなくて、気分が悪くなったのでやめた。頭の後ろが冷たい感じがして痛くて、少し吐きそうだった。こっちは飲み過ぎたせい。

男たちから目をそらすと、タイガーマスクを被った派手なおじさんが入り口のドアを押して入って来て、カウンターで歯を磨いているマスターの横に新聞を置いた。マスターは何にも興味を示さない人なのか、置かれた新聞の向こう側を見るような遠い目で歯を磨き続けていた。タイガーマスクのおじさんが出て行く時、身にまとっているショッキングピンクの羽がいくつか抜けて宙を舞ったのをマスターは見ていなくて、私だけが地面に落ちるまで見つめていた。

依然として男たちは音楽についてああでもないこうでもないと話していて、ライブハウスの置物みたいになった私は、天井の電球に目をやった。帰りたいなあと思いながら、ライブハウスを出て、エレベーターに乗って、タクシーを捕まえるまでの行程を想像すると面倒くさくて立ち上がる気が削がれた。電球を一心に見つめていると、周りの暗闇がどんどん濃くなって、視界が白く狭くなっていく。目を閉じると瞼の裏に電球の残像が見えた。意味もなく眼球をぐるぐる動かすと残像は形を変えて動き、その姿を追っていたら吐き気が込み上げてきて、慌てて目を開けた。目を開けても意味のあるものはなかったけど、ふとドアからホームレスのおじさんが入ってきた。マスターはカウンターに突っ伏して寝ていたけど、多分起きていたとしても何も言わないだろう。

ホームレスは最初から私たちと待ち合わせしてたみたいに、こっちに近づいてきて席に座って、誰かが使ったまま置き去りにしていったグラスに酒を作って飲んで、当たり前のようにテーブルに置いてあったタバコを吸った。えっ、えっ、何と言いながら、私はふっと愉快な気持ちになった。男たちも同じなのかおじさんを見ながら笑っていた。「飲み会で目の前にある酒は自分の酒だからね」とわかるようなわからないようなことを言い合いながら、面白い気持ちでホームレスのおじさんにみんなで酒を注いだ。相手がホームレスだから、というのは関係なくて、煮詰まった飲み会に新しい人が来た時のほぐれた空気感を感じていた。

おじさんが小銭をくれと言い出したので、みんなよくわからないまま「これでタバコ買ってくれ」とか「ライターも買ってくれ」と言いながら小銭を出し合ってバラバラとあげた。ホームレスのおじさんがわかりやすく上機嫌になって踊り出したので、男たちはギターを弾いて適当に歌った。ホームレスのおじさんはギターの音に合わせていつまでも腰を振って踊っていた。私は「ずっとシャワーを浴びないと、体臭がなくなるのもしれない」などとよくわからないことをぼんやり考えながら、このおじさんとセックスできるか考えていた。さっき想像したみんなでのセックスより現実感がある気がして、自分で自分がよくわからなくなった。

まだ腰を振りながら踊っているおじさんを見上げる。全体的に苔みたいな深い緑色の服を着ていて、焼けているのか汚れているのか、肌は浅黒い。歳はいくつくらいなのかわからないけど、おじさんの目からは性欲みたいなものが一切感じられなかった。老人みたいに黒目が透明になっていて、欲もないし、何も映ってないみたいだった。

踊りに夢中になってこちらを見ないのをいいことに、私はずっとおじさんの透明な目を見ていた。
突然私はミュージシャン男のアコギを奪って、ボディの穴にゲロを吐き、それを思いっきり叫びながらテーブルの角に振り下ろした。ギターがテーブルと接触した瞬間、灰皿とアイスペールは浮き上がって、グラスがいくつか倒れ、木っ端微塵になったギターの破片とゲロが飛び散った。私は笑っていて、なぜかちっとも汚れていなくて、男たちはゲロを顔にくっつけたまま驚いて固まっていて、おじさんは踊っていた。爽快だった。なぜか、なぜかそんな光景をおじさんの目の中に見ていた。

小銭を握りしめたおじさんが来た時と同じ自然さで急に立ち去ってから、私たちもなんでお金あげたんだっけという不思議な気持ちになって外へ出た。空が白んで明るくなり始めていて、一瞬爽やかな気持ちになったけど、朝が来るのかと思うと疲れて気持ちが淀んだ。駅に向かう男たちに手を振って、ひとりでタクシーに乗り込んだら気が楽になって、同時につまらなくもなった。別にあの人たち、誰も私とヤリたいなんて思ってなかったよな。急に申し訳ないような恥ずかしいような気分に襲われて、逃げるように後部座席で目を閉じた。

文=姫乃たま


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姫乃たま(ひめの たま)
地下アイドル/ライター
1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を軸足に置きながら、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。フルアルバムに『僕とジョルジュ』があり、著書に『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。
ウェブサイト ■http://himeeeno.wix.com/tama
Twitter ●https://twitter.com/Himeeeno

白根ゆたんぽ 1968年埼玉県生まれ。イラストレーター雑誌や広告、webコンテンツなどにイラストを提供しているほか自身のZINEのシリーズ「BLUE-ZINE」や個展の図録「YUROOM GIRLS SHOW」などの制作、販売も行っている。最近の仕事に「ノベライズ・テレビジョン」(河出書房新社)装幀、「セックスペディア」(文藝春秋)カバーイラストなど。
http://yuroom.jp/
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17.12.23更新 | WEBスナイパー  >  とりあたまちゃん
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