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I want to live up to 100 years
「長生きなんてしたくない」という人の気持ちがわからない――。「将来の夢は長生き」と公言する四十路のオナニーマエストロ・遠藤遊佐さんが綴る、"100まで生きたい"気持ちとリアルな"今"。マンガ家・市田さんのイラストも味わい深い、ゆるやかなスタンスで贈るライフコラムです。今年に入ってからの私は淀んでいる。
毎月ボヤいているからおわかりだと思うが、理由は更年期からくる体調不良だ。メンタルに出てるわけじゃないからまだマシだとも言えるけれど、偏頭痛とか吐き気とかだるさとかいうちょっとした不調が日常的に続くのはなかなかにキツイ。本来の半分くらいのHPで生きてる感じとでも言うのだろうか。おかげで前のように気分転換に大酒を飲むことも、集中して一日にたくさんの原稿を書くことも、あまりできなくなってしまった。
これも「100まで生きたい」というタイトルの連載なのだからなるべく明るく前向きなことを書きたいと思っているのだけれど、そんなガッツが湧いてこないんである。
なので今回は、このダークな気持ちを愚痴ってみることにした。
誰も更年期女の愚痴なんて聞きたかないと思うが、長生きをするにはストレスをためこまないことが第一。だとしたら、我慢せずワールド・ワイド・ウェッブで愚痴を垂れ流すのも「100まで生きたい」ってテーマと無関係ではないんじゃないだろうか。まあ、細かいことは置いといて、そういうことにしといてほしい。
さて、私が更年期と付き合い始めて一年あまり。
最初のうちは「まあ、女に生まれたからには仕方ない。適当に付き合っていくか」というくらいの気持ちでいたのだけれど、症状が長く続くにつれてだんだんとイライラが募るようになってきた。
じわじわといろんな症状が出始めたのも一因だが、このイライラの一番の原因は「なんで私ばっかりこんな思いをしなくちゃいけないの!?」という思いだ。
ご存じの方も多いと思うが、更年期の症状というのは個人差がある。
更年期に限らず女性ホルモン系の事象はだいたいそうで、例えばプールに入れるくらい生理が軽い人もいれば重くて何日も動けない人もいるし、PMSで毎月精神安定剤を飲んでいる人もいれば「それ何、おいしいの?」って人もいる。
私に言わせると、この「個人差がある」というところが女性ホルモンのクセモノたる所以なのだ。
みんなに同じように症状が出るのであれば、まあなんとか我慢もできる。でも、ほとんど症状がない女性もいると思うと、やっぱりモヤモヤしてしまう。
こんなことを言ったってどうにもならないとわかっているのに、「どうして○○ちゃんばっかり! ふっこうへい! ふっこうへいっ!!」と私の中の小学生が不公平コールを始めだす。
私が「自分はどうも婦人科系が弱いらしい」と気づいたのは、28歳のとき。なんとなく受けた婦人科検診で、大きな子宮筋腫が見つかったのがきっかけだった。
お医者さんは「子宮筋腫っていうのは成人女子の4人に1人くらいが持っているもので、誰がかかってもおかしくはないものなんですよ」と言ったけれど、なんだか釈然としなかった。
私みたいに女性ホルモン低そうな人間が、そんな女女した病気にかかるなんて......と思ったからだ。
美人なわけでもオッパイが大きいわけでもモテるわけでもない。もちろんガンガンやりまくってるわけでもない。どちらかというと女のキラキラした面とは無縁で生きてきた。なのにどうして今になって、こんな女の暗黒面を引き受けなくちゃならないんだろう。
世の中には"めっちゃ子宮が丈夫な女子アナ"とか"超生理の軽いヤリマン"なんて生き物もいるんだろうに......。人生はつくづく不公平だ。そう思った。
それから生まれて初めて入院し、2回の手術を受け、ホルモン治療でよくわからない更年期鬱なんてものも経験した。元々生理が重いという自覚はあったけど、婦人科系器官に次々ボロが出始めたのは、あのときからだ。
最近、初潮が来る前の小学生だった頃のことをよく思い出す。私は学校を一度も休んだことがない子供だった。もともと体は丈夫なほうだったし、色黒で体の大きい男みたいな女の子だったから、少しくらい体調が悪くてもそんなことはものともせず毎日学校に行っていた。ブサイクで非モテだったけど、ある意味人生の黄金期だった。
あの元気な子供と今の自分とを比べると、別人みたいだなと思う。
大人になって、女になって、私はバカみたいに弱くなった。女性ホルモンというバケモノに本当の自分を食べられてしまったんじゃないか。体調の悪い日は、そんなつまらないことまで考えてしまう。
2カ月ほど前、毎年受けている健康診断の結果が届いた。
多少脂肪がついてはいるほかはほぼ正常値......だと思ったら、ずらりと並ぶA判定の中にひとつだけ要検査があった。よく見ると貧血の項目だった。
病院へ再検査に行ってわかったのは、この貧血は生理時の大量出血のせいで起こっており、今悩まされている頭痛やだるさの原因にもなっているということだった。別に重大な病気にかかったわけじゃないのに、ホルモンバランスが悪いというだけで、こんなにいろんな症状が出るのかと驚いた。
家に帰って処方してもらった鉄分の錠剤を飲んだけれど、体に合わずゲーゲー吐いてしまったので怖くなってやめた(ネットで調べてみると、ときどきそういう副作用が出る人がいるらしい)。子宮筋腫をなんとかすれば貧血も和らぐのかもしれない。でもこの年齢になって今さら3回目の手術をするのは嫌だ。どっちを向いても八方ふさがり......ああ。そして私は、女性ホルモンと戦うのを諦めることにした。
もういい。こんな苦しい思いをするんだったら、無理せず家の中でじっとしていよう。ロキソニンで頭痛や腹痛をやり過ごしつつ、半分くらいのHPで生活して、生理がなくなるのを待とう。そう決めた。
淀んだ日々に一つだけ救いがあるとすれば、私とよく似た体質の老母の存在だ。
私と同じように子宮筋腫があって、同じように偏頭痛持ちで、同じように更年期のとき塞ぎこんでいた老母。彼女は実家に帰った私がブツブツと体の不調を訴えると必ずといっていいほど「あらー、おかーさんもそうだったわ!」と言う。
それが本当なのか私を安心させるための方便なのかはわからないけれど、老母に言わせると「そういう女の病気は生理がアガっちゃえば全部治る」らしい。
確かに70歳を過ぎた彼女は、プクプクと太って私が子供だった頃のお母さんよりも全然元気に見える。
「あんたも生理が終わったら、もう一度子供のころみたいに丈夫になるよ。だって、私もそうだったもの」
その言葉を思い出して、嵐が過ぎ去るのを待っている。
文=遠藤遊佐
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